【学生・新人さん必見】認知症へのアプローチの基本
こんにちは!OTだみんです。
ここでは、認知症のアプローチ手法として、昔から効果があるといわれている4つを紹介します。
- 現実見当識訓練
- 回想法
- CTS
- バリデーション
また、これをまとめるうえで参考にした文献のリストも記載しています。
興味がわいた方は、ぜひ参考文献のほうも読んでみてくださいね!
認知症へのアプローチの基本を押さえて、介入に生かしましょう!
⑴現実見当識訓練(reality orientation training)
ROTやROとも呼ばれる。ROTには非定型ROTと定型ROTがある。
発祥:1960年代、アラバマ州の退役軍人管理局病院において、認知症や脳血管性障害などによって起こる認知障害や見当識障害を有する高齢者を対象に、精神科医Folsomらが開発した(2)。
目的:見当識障害に対して直接的に介入する。時間、場所、人物を正確に想起させ、認知機能の改善や行動・感情の安定化を図る。若松ら6)は定型ROT実施によって脳血管性認知症患者の認知機能の改善、アルツハイマー型認知症患者の認知機能維持が認められたとしている。非定型ROTはWilliamsらによって見当識の改善に有効であったことを報告しているが、だれがどのように訓練を行うか統制を行わないため、科学的に評定しにくい、と若松らは考察している。
方法:(定型ROT)決まった時刻に決まった場所に患者を集め、グループで見当識に関する情報を繰り返し学習していく。障害の程度に応じて3~6名のグループによって30分~1時間のセッションを行う。内容は日時、天気、名前などの基本的情報に重点を置くものから、対人関係や社会的意識、関心を育むものまで様々であり、患者のレベルに応じて変える。スタッフは案内役として励ましや援助・助言を行う。
(非定型ROT)1日24時間、対象の患者と接する機会をとらえて、時間や場所に関係なく様々な場面で、日時や季節、場所などの情報を与え続け、それらを思い出させたり、スタッフが出来事について意見を述べたりする。
注意:ROTは基本的に①成功体験をもつこと、②自分の外部で何が起こっているのかを知ること、③コミュニケーションを持つことの3点を重要視している。
効果・エビデンス:若松ら6)は定型ROT実施によって脳血管性認知症患者の認知機能の改善、アルツハイマー型認知症患者の認知機能維持が認められたとしている。非定型ROTはWilliamsらによって見当識の改善に有効であったことを報告しているが、だれがどのように訓練を行うか統制を行わないため、科学的に評定しにくい、と若松らは考察している。Rainaのreviewの結果と合わせると認知機能、BPSDに対して一定の効果を認める、となっている8)。
⑵回想法
目的:記憶の想起により人生の連続性の自覚を促し、自尊心やコミュニケーション能力を回復させる。共感的受容的姿勢をもって意図的に働きかけることによって、高齢者の人生の再評価やアイデンティティの強化を促し、心理的安定やQOL向上を図る。
方法:形態は個人回想法、家族回想法、グループ回想法(クローズド、セミクローズド、オープン)がある。幼児期から現在に至るまで特的の人物、出来事を時系列にそって想起していく方法と、適宜話題を提供し、自由に想起させる方法がある。写真や本、遊び道具や慣れ親しんだ動作・作業などを用い、手続き記憶を用いるのも有効とされている。
注意:苦痛に満ちた過去の想起、失敗体験や喪失体験などからうつや不安を誘発しないように留意する。
効果・エビデンス:Winblandのreviewによれば、抑うつや不安などの感情、行動、満足感、自尊心など、心理・社会的な面で効果を期待できるとしている8)。
(作業回想法) 作業回想法は認知症の残存機能である、長期記憶や手続き記憶を活用し、高齢者が体験してきた家事、手仕事、遊び等をテーマに、馴染みの懐かしい道具の使い方を、認知症高齢者が先生となって、若い職員へ動作を交えて指導するように進めた。普段はケアをされる側の認知症高齢者が先生となり、教えるという役割を果たすことで自尊心の改善が期待できる(3)。
⑶CTS(cognitive stimulation therapy:認知刺激療法)
イギリスで2003年にROTや回想法を系統的にまとめ開発された。大規模な無作為比較試験により認知機能、QOLの改善が報告されており、特に認知機能に関しては薬物治療と同等の改善を示し、コストに関しても有効な結果が得られている。イギリスのNational Institute of Health and Clinical Excellence(NICE)により実施が推奨されている10)。
日本の文化に合わせて認知刺激療法を日本版に考案されたのが「いきいきリハビリ」である9)。以下に方法、効果・エビデンスを記載する。
方法:
①介入前に個人票を作成し、対象者についての詳細な情報収集を行う。
②毎回のセクション時に、日付、季節、実施者の氏名などについて、日誌を一緒に記入することで確認する。
③セクション1回に約20分とし、週1回、10セクション行う。
効果・エビデンス:認知機能の維持・改善の効果に加え、QOL指標において改善の傾向を示した9)。
(4)バリデーションセラピー
Naomi Feilにより提唱された。認知症により、混乱したり、偏執狂的になったり、妄想を抱いたりしても、しっかりとしたコミュニケーションをとることで、その人の人間性を最大限に尊重し、その人全体を理解しようと努めるかかわり・実践である。
Feilは認知症の人がおかれている状況(段階)として、人にはその年までに解決しなければならない課題があり、それを解決しないままに人生最後のステージを迎えた場合、
①認知障害
②日時、季節の混乱
③繰り返し動作
④植物状態
の4つの人生の未解決ステージを迎えるとしている。そうした混乱にあるとき、その混乱している状態もその人の現実として受け止めていくことで、安心感を取り戻し、かかわる人を身近に感じ、実在感がもてるようになり、それが混乱を鎮めていくとしている(2)。
右にFeilによる14のテクニックを下に表として記載する。
参考文献
1)山口晴保編 認知症の正しい理解と包括的医療・ケアのポイント 第2版 協同医書出版
2)認知症の定義,概要,経過, 疫学 – 日本神経学会
3)高橋智 認知症の BPSD 日本老年医学会雑誌 48巻3号
4)佐野佑樹ら 回復期リハビリテーション病棟における認知症の評価 – 認知尺度と行動観察尺度を併用して用いる有用性
5)山根寛 リアリティオリエンテーション・回想法 講義資料 2004
6)若松直樹ら 痴呆性老人に対するリアリティ・オリエンテーション訓練の試み
7)繁信和恵 見当識障害の評価とリハビリテーション
8)辻省次編 認知症神経心理学的アプローチ 中山書店
9)森明子 認知症高齢者に対するいきいきリハビリの開発と効果検証に関する研究
10)KAKEN 山中克夫 認知症高齢者のための認知機能活性化アプローチによる系統的プログラムの開発 2009年報告書
引用文献
(1)山口晴保編 認知症の正しい理解と包括的医療・ケアのポイント 第2版
協同医書出版 p4
(2)小川敬之編 認知症の作業療法 エビデンスとナラティブの接点に向けて 医歯薬出版 p72
(3)上山徹也ら 脳活性化リハビリテーションによる認知症の行動心理症状の軽減と活動性向上の可能性
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