BPSDに対する最新知見―2021―
こんにちは!OTだみんです。
超高齢化社会の真っ只中である日本では、リハビリ職についていると認知機能障害を持っている高齢者のクライアントに介入する機会も多いです。
かくいう私も、病院勤務→デイサービス勤務と働く場所を変えながらも、一貫して高齢者のリハビリ介入を日頃行っており、クライアントが認知機能障害を持っていることも多いです。
そこで今回は、認知機能障害を持つクライアントに対する介入について理解を深めるため、最新の知見をみていこうと思います。
とくに、認知機能障害をもつ方の介入の際、避けて通れない大きな課題であるBPSDへどう対処するべきかを重点的に考えていこうと思います。
今回、この文章を読んでいただくにあたり、注意点がいくつかあります。
1、認知症に関する基礎知識がない方は以下のリンクからどうぞ。このページは専門用語が飛び交います。
2、既存の認知症介入に関する知識がない方は以下のリンクからどうぞ。
※今回の記事はあくまで最新の知見を書いており、かつ、筆者の研究に関することと絡んでかかれていますので、今まで専門家が試行錯誤してきた認知症介入のスタンダードプランではありません。
では、本文に移っていきましょう!
BPSDについて理解を深める
BPSDをおさらい
BPSDは、Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの頭文字を取った名称です。
日本語だと、「認知症の行動および心理症状」という訳になります。
認知症の症状のうち、脳の神経細胞が壊れて起こる症状(中核症状)ではなく、周囲の人との関係性の中で起こる精神症状や行動症状のことです。
わかりやすい例を上げると、暴言や暴力、徘徊、妄想、抑うつ、弄便などなどです。
例を見ればわかるとおり、これらはクライアント自身の生活の質を下げたり、家族や介護者の負担を増やす要因になるため、問題になっています。
BPSDが起こる原因についての考察
BPSDは、
- ここにいる価値がない、と本人が判断すること
- 自分の現在の状況がわからず、混乱すること
- 感情のコントロールができず、動き回りたい
という状況を作り出すことによって起こる、とだみんは考えています。
臨床家の方は考えてほしいのですが、
①「何か」に「夢中」になっているとき、BPSDは発現しますか?
頻度は少ないと思います。
②ホットパックや音楽など、落ち着くことができる何かに触れているときにBPSDは発現しますか?
これも頻度は少ないと思います。
③運動や体操に参加しているとき、BPSDは発現しますか?
①や②に比べると、頻度は高いとは思いますが、なかなかこれも少ないのではないかと思います。
④食事(食べ始め)や入浴中はどうでしょうか
③よりも頻度が高いですが、普段よりは少ないと思います。
これらより、BPSDは
- 何かに集中しているとき
- 本人にとってのTODOがあるとき
- 生理的欲求を満たしているとき
には出現しにくいのです。
これはすべてではありません。
たとえば、便にかんして、ベッドの便汚染などを引き起こすBPSDは、基本的には「短期記憶障害」と「臀部の感覚の気持ち悪さ」、「今すぐどうにかしたいという我慢のなさ」というものがあります。
皆さまが、いきなりお尻に異物の感覚が出現したとします。どうでしょうか。
びっくりしますよね?ここまでが「短期記憶障害」による影響と一緒です。
しかし、対処の仕方は違うと思います。
トイレにいき、確認すると思います。いきなりお尻に手を突っ込んで投げようとは思わないはず。これが、「我慢のなさ」です。遂行機能障害といってもいいです。(識者の方々間違っていたらコメントください)
これは、「気持ち悪い」今の状況を「すぐにどうにかしたい」が、仮に便だったら汚染してしまうなぁ、という予想が立てられない。
「すぐにどうにかしたい」という感情が勝ってしまうことで便汚染が引き起こされます。
ここまで、便汚染にかんするBPSDについて書きましたが、これは、上記の①~④のどれを導入しても対処しようがないです。
あえて言えば、認知機能障害がよくなれば、もしくはポータブルトイレなどが近くにあれば対処が可能になるかもしれません。
なので、別の問題であることを理解いただきたい。
BPSDの理解・介入の鍵になる要素
では、それ以外のBPSDに関してなのですが、①~④が理解・介入のカギになるのではないか、とだみんは推察しています。
そのすべてに言える話として、
- フロー
- エンゲージメント
があると思います。
「フロー」や「ゾーン」という話を聞いたことがありますか?
これは、「ミハイ・チクセントミハイ」が提唱したものです。

簡単に説明しますと、
「自分の能力にあった興味がある課題を、100%近い能力をつかって取り組んでいる状況」が「フロー」です。
そして、それを「測る」という考え方のことを「engagement」といいます。
この「engagement」「フロー」をあげていくことこそ、認知症介入の適切な考え方であり、BPSDを抑える介入として正しいのではないか、と思われます。
実は、「An analysis of the relationships among engagement, agitated behavior, and affect in nursing home residents with dementia.」(international psychogeriatrics. 2012 May;24(5):742-752)の中でも、
負の感情とBPSDが相関しており、反対の正の感情はengagementと相関していること、engagementが高いとBPSDが低く抑えられるという傾向性があることが言われています。
また、ポジティブ心理学(マーティン・セリグマン:ポジティブ心理学の挑戦“幸福”から“持続的幸福”へ.2014)の中でも、well-being(作業療法士が目指す、幸福がずっと続く状態にある、理想的な状態のこと)にはengagement、「フロー」が必要であることが言われています。
つまり、認知症を持ったクライエントに、暇で無意味、無為な時間を経験させることなく、本人の能力にあった作業に誘導し、従事(engagement)してもらうことがBPSDを抑える方法であり、認知症介入にとって正しい方法なのではないか、と考えることができます。
この記事をみているあなたが「作業療法士」であれば、人間作業モデルにおける「VQ」を利用した「remotivation process」を行うことも推奨されます。
これは、実際に日本語版で、人間作業モデル研究所にて発表されているマニュアルであるのですが、
これはVQを使って、意志の段階を上げていき、自律できるように介入していくモデルになります。
※実際に日本で様々な分野にて使用されるためのエビデンス整備は、今後行われていくと思いますが、今は実はないです。
ちなみに、認知症を持ったクライエントの活動能力を適切に評価しようとする専門家は何人かいます。
日本において、専門家は「小川真寛 先生(神戸学院大学准教授)」でしょうか。
この先生は「pool活動レベル」に関する日本の第一人者です。
この考え方は、
「認知症者」を認知機能ではなく、「活動レベル」でみています。
そして、それに合わせた活動の選定をおこなってください、と言っています。
また、他に専門家を上げるとするならば「久野真矢 先生(県立広島大学教授)」でしょうか。
この先生は、
ADL/IADL-COGという指標を作りました。
これは認知機能低下した高齢者の脳機能を、子供の脳機能と照らし合わせることで、測定しようとしたものです。
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どんな活動ができるのか
を可視化しようとしたことがわかります。
この試みは
「engagement」を高め、「フロー」に導くために「適切な活動」を選ぶための評価方法を作成した
ととらえることができます。
まとめ
この記事では、BPSDがどうして起こるのか、どうすれば発生を減らせるのかについて、最新の知見とともに考察してまいりました。
結論としては、
「認知症を持ったクライエントには、その人にとって適切な活動を選び、それを提供することでBPSDを抑えることができるかもしれず、可能性は計り知れない」
ということです!
高齢者の人口が増えていくなかで、ますますBPSDの対策は重要になっていくでしょう。
すくなくとも、クライアントの無為な時間を増やさないように配慮することが有効な対策ではないか、という仮説があるので、余暇活動の導入などを検討する価値はあると思います。
※余暇活動について過去に書いた記事があります。重複する内容もありますが、よかったら余暇活動導入の参考になさってください。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
以上、OTだみんでした!
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