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上腕骨近位部骨折・実践!臨床リハビリ解説

上腕骨近位部骨折・実践!臨床リハビリ解説 実習生・新人に向けて

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こんにちは!OTだみんです。

このサイトでは、リハビリ実習生さんや新人さんに向けて、現場でよく見かける疾患について、臨床での実際の介入方法を解説した記事を書いています。

実際、疾患名から検索して見ていただくことも多く、困っている学生さんや新人さんに参考にしていただけているなら嬉しい限りです。

今回は、上腕骨近位部骨折の臨床での介入について基礎的な部分を解説しようと思います。

ここでは、医学モデルに基づく介入や評価方法、プロトコルについて記載していきます。

正直、疾患の基本的な部分を詳細に記載するぐらいだったら、教科書などを参考にしてほしいです。

ですので、ここでは差別化として、本当に臨床で使う知識のみを厳選して載せていきます。

まんべんなく広い知識ではなく、使う知識を頭に入れたい方はぜひ参考にしてくださいね!

では、さっそく見ていきましょう!

上腕骨近位部骨折の医学モデル基礎知識

術式

上腕骨近位部骨折には、大きく分けて3種類の医学的介入があります。

  • 保存療法
  • プレート固定などの手術療法
  • 人工関節や人工骨頭の置換手術

下肢と同様に

「人工骨頭や人工関節が早く退院でき、さらにADLやIADLも早く復活する」

というわけではありません。

骨折の重症度上、人工関節や人工骨頭でないと対応できない、ということです。

医学的介入の中でよく遭遇するケース

実際には、一番プレート固定、髄内釘が一番多い気がします。

骨折系はNeer分類も、2-part骨折の外科頸骨折、3-part骨折の大結節と外科頸骨折が一番多かった印象があります。また、骨接合が多かった印象です。ちなみに、1-part骨折の場合は積極的に保存療法を取ります。

実際に、肩診療マニュアルでは「外科頸骨折」の高齢者が多いと話されています。

原田ら(2017)は、骨頭壊死症例に人工骨頭もしくは人工肩関節置換術を行うことで、臨床症状の改善があったと話しています。

また、参考文献である「整形外科運動療法ナビゲーション 上肢・体幹」では、肩甲下筋と蕀下筋を縫合した事例があるように、場合によっては筋に影響が出るような手術もあると紹介されています。

上腕骨近位部骨折のプロトコル

プロトコルについては基本的には3段階に分かれます。

◆プロトコル

Ⅰ装具固定期

Ⅱ装具除去期

Ⅲ抵抗運動期

◆各期の長さ

  • 保存療法 Ⅰ:~4w Ⅱ:~8w Ⅲ:9w~
  • 骨接合  Ⅰ:~3w Ⅱ:~9w Ⅲ:10w~
  • 人工   Ⅰ:~5w Ⅱ:~12w Ⅲ:12w~

見ていただいてわかると思うのですが、装具固定が外れるのが一番早いのが骨接合です。

そして、人工骨頭や人工関節が一番全てにおいて遅い。これは下肢との一番の違いです。

リハビリテーション的に、このⅠ~Ⅲで大きな差はないです。

大きな違いとしては、

  • 期間の差
  • 疼痛
  • 禁忌(→人工肩関節・人工骨頭)
  • 術部の侵襲

でしょうか。実はリハビリテーションのメニューはほとんど一緒なのです。

・禁忌については、人工肩関節・人工骨頭の時です。これは、「過度な内転・内旋」にて起こる可能性が高い、と言われています。

侵襲は人工関節では、基本的には烏口突起から1横指のところから、肩関節前方に向かって5cm切ります。

ですので、上外側に骨頭が向き、そこに向かって骨頭を押し付ける肢位が禁忌肢位なのです。

ここから「過度な内転・内旋・伸展・肩甲骨内転」つまり、結帯動作が禁忌になりうる、ということでしょう。

・侵襲に関して、上記に記載している通り行う人工肩関節では「肩峰下滑液包、烏口肩峰靭帯の切開」「肩甲下筋・三角筋のコントロール」です。肩関節の外旋や伸展がしにくくなります。

一方、骨接合では、肩峰から腋窩にかけて5cm程度切開します。

そして「肩峰下滑液包、烏口肩峰靭帯の切開」「肩甲下筋・三角筋のコントロール」です。

つまり、切る部分が違うだけ、ということでしょう。

上腕骨近位部骨折の評価

  • JOA score
  • ROM
  • Q-DASH

を治療成績として評価するところが多い。

評価のタイミングとしては、術前・術後すぐ・各期の初めといったところです。

また、それに加えて

FIM

末梢神経障害

の評価も行っていることが多い。

FIMに関しては以下のリンクへ

末梢神経評価は、骨折によって損傷している可能性があるため、初期に評価しておくことが推奨されている。

各期プロトコル詳細

では、各期のプロトコル/介入方法について記載していきましょう。

Ⅰ(装具固定期)

この頃は

  1. 創部・患部以外の部分への介入
  2. ポジショニング・炎症コントロール
  3. ROM拡大のための介入

になります。

1創部以外への介入 OPE後すぐ

これは、2種類含まれています。

1つ目は、肘や手の運動を、患部に影響を与えないレベルで行なう、ということです。

使わない、ということは体にとって悪です。浮腫が溜まりやすくなったり、筋肉が痩せたり、皮膚の伸張性が低下してしまいます。

特に肩関節疾患の場合、手関節をしっかりと動かしておくこと、それも自動運動がいいです。筋発揮を行うことで血流量が上がり、浮腫を軽減させます。

2つ目は、全身運動です。

骨折をしてしまうと、全体的に活動量が減ってしまいます。

そうすると、体力(運動対応能)が低下しやすくなり、作業療法的に言えば、作業機能障害に陥りやすい状態になってしまいます。

そこで、エルゴメーターや散歩、階段昇降など、全身運動をさせることが必要です。

これは必ずしも介入時間で行なう必要はありません。

指導しておき、1日の中で活動できるようにしてあげればいいのです。

認知症を持っているクライエントの場合は別ですが。

2ポジショニング・炎症コントロール OPE後すぐ

ポジショニング、というのは2つ。

1つ目は三角巾の場合に、手が心臓より高い位置・同じ高さにしておくことです。

これは拘縮・浮腫予防になります。

この三角巾の位置を間違った、指導不足のために、手関節が拘縮してしまった例を私は多く知っています。

拘縮してしまったら、そこから治していくことにも時間がかかってしまいます。

ADLにも影響を与え、趣味などの活動にも影響が出るでしょう。

このポジショニングはかなり大切です。

2つ目は就寝時の臥位姿勢の指導です。

上に記載しているように、後方からのアプローチが多いことと、背臥位の姿勢が患部の骨片に胸筋や肩板筋群の影響を与えてしまい、転位の方向に力を加えてしまう、ということがあります。

ということは、就寝時、何もせずに寝かせてしまうと、疼痛を誘発してしまいますし、さらには「転位」を助長してしまうため、患部を悪化させてしまう状況になってしまいます。

ですので、患部の上肢の下にクッションやタオル、枕を入れて、ベッドに肩がつかないようにしてあげることが大切です。

ここまでがポジショニングです。

もう一つは炎症コントロールですが、基本的には急性期のうちは組織が損傷していることでの疼痛なので、アイシングが基本になってきます。

睡眠やADLに影響が出るようであれば、Drと話してみて鎮痛剤などの頓服も視野に入れておく必要があると思います。

※ちなみに、慢性疾患の場合には「ホットパック」などで温めることが効果的です。

3ROMex 1w~

これは、Drの指示で開始していきます。セラピストが自分の判断でROMexを開始してはいけません。大体術後1w程度からROMは行っていきます。

基本的にはpassive(他動)ROMを行います。

炎症や転位が強い場合、一般的には屈曲90度、外転90度程度までにすること、疼痛が増悪しない程度にしていくことが求められます。

このROM訓練の中にはstooping exも含まれます。

机に手をつき、体幹を大体90度ぐらいまで屈曲し、床に平行になるぐらいにします。

患部がブランブランと揺れると思います。脱力して患部に力を入れずにします。

初めのうちはブラブラと患部をしておくだけで構いません。

姿勢に慣れてきたら、腕以外の力を使って患部が前後にブラブラするようにします。

この時、患部に力が行かないように指導します。

ブラブラと腕以外でさせる訓練のことを「振り子運動」と言ったりします。

このstoop exは骨折部に余計な外力が加わりにくく、肩のインナーを使わせる運動になり、この運動を行っていくことで組織の癒着やインナーの弱化を止めることができます。

最終的には、この初期のROMやstoop exが術後成績に大きな影響を与えるので、忘れないようにしましょう。

そして、ROM時に、背臥位で固定を外してもいいか、をDrに聞いておくことを忘れないようにしてください。許可がないと固定は勝手に外してはいけません。

また、このstoop exは三角巾などの固定をしたままでも行うことができます。

仮に「固定は絶対に外してはいけない」とDrに言われたとしても、このstoop exは行うことができます。覚えておきましょう。

Ⅱ(装具除去期)

基本的に行うのは「アイシング」「自動介助(assistive)運動」「wiping ex」「自動(active)運動」になります。

ⅠからⅡに移行するにあたって、4~5週目にDrから許可が出る。大体この時の許可の言葉として、「自動介助運動の許可」「自動運動の許可」です。

この許可が出れば、Assistive→activeと移行していき、activeができれば装具を除去していく流れになっています。

この時期で大切なこととして、

Assistiveの時に、セラピストが行う→本人が行う といったように移行していくことが大切です。本人がどのくらいまで関節角度をあげれば疼痛が出るのか、を把握すること、そして筋発揮をしていくことを体で理解していくことが大切です。

また、肩屈曲・外転角度がpassive90度にて疼痛が出なくなったら、屈曲位60度もしくは外転60度にて腱板の筋発揮を誘導していきます。

プラットホームや治療台の角度をあげ、そこで屈曲位もしくは外転位にて肘を置かせ、腱板の筋発揮を誘導するのです。

また、腱板の運動が可能であれば、三角筋の運動も同様にして行います。これは基本的には、関節運動を伴わせない「当尺性運動」を行う、ということを忘れないでください。

最後に、wiping exを行っていきます。屈曲・外転位での上記の運動が疼痛なくできるようになったら移行します。

Wipingは「テーブル拭き」だと覚えてください。

タオルなどに手を乗せて、肩屈曲・伸展・外転・内転に動かしていきます。筋発揮を自然な形で行うこと、active関節可動域の向上を目的としています。

ですので改めて順番として

「臥位assistive ROM」→「座位assistive」→「当尺性の筋発揮」→「wiping」

と覚えてください。

Activeになったら、徐々に装具を外していきますが、間違ってはいけないこととして「荷重をかけてもいい」と「装具を外してもいい」は同じではない、ということです。

実は、「荷重をかけてもいい」というのはⅢの時期になりますし、結構最後の方になりますので、「純粋に、自重だけで行うこと」。

「患側の手をベッドなどに着かせる運動」「食事などでものを持つ運動」は許可されていないことが多いです。Drにしっかりと確認しておく必要があります。

介入方法なのですが、「activeROM」はもちろん、棒体操を行っていきます。

棒体操は片手で行うのではなく、両手で行います。

まず最初に、臥位で挙上・屈曲・体幹回旋・肩回旋などを行います。

それが疼痛なくできるようになれば、座位で次は行っていきます。

注意として、座位で疼痛が出るようであれば無理せず、臥位で行っていくようにしましょう。

この頃に差し掛かると、退院される方が増えていきます。

Ⅲ(抵抗運動期)

この時期になる頃に退院していく方が多いです。

ですので、しっかりと自主トレ指導を行うこと、本人もできる形で筋力訓練を行っていくことが必要です。この時期にようやく「全荷重可」と許可が出ます。

まずは肩甲骨インナーのエクササイズを行っていきます。

一番初めに行うものとして、ボール運動とチューブトレーニングがあります。

ボール運動

ボール運動は壁に押し付ける運動です。

これで、前鋸筋を主として腱板に負荷をかけていきます。

次にチューブトレーニングです。

チューブをお尻にひき、反対側を横に持ち上げる運動・前に持ち上げる運動で三角筋ex、何かにくくりつけて、反対側をもち、外に出す運動で外旋筋を、うちに引っ張る運動で内旋筋を鍛えていきます。

このチューブトレーニングの注意点として、負荷を高くしない、ということがあげられます。

高くしてしまうと代償運動を伴いますし、アウター中心の筋発揮になってしまいます。軽めの負荷で回数をこなすことを心がけてください。

最後にストレッチ指導です。退院前にしっかりと覚えてもらいます。

よく聞くストレッチを紹介しておきます。

1つ目はsleeper stretch、2つ目はCross-body stretchです。

この他にも、肩甲骨挙上や肩甲骨内転の運動などを加えて指導しておきます。

セラピストが徒手的に行うこととして、肩甲上腕リズムの修正やROM最終域でのストレッチングがあります。

肩関節屈曲・外転に合わせて肩甲骨を誘導していき、最終域にてストップ、肩甲下筋や僧帽筋・広背筋の伸張性向上のためにダイレクトストレッチを行います。

参考文献

神野哲也監修:ビジュアル実践リハ 整形外科リハビリテーション.羊土社

原田 洋平, 横矢 晋, 白石 勝範, 根木 宏, 松下 亮介, 望月 由:上腕骨近位端骨折(AO分類11-C)に対する骨接合術の治療成績.2017 年 41 巻 2 号 p. 455-458

肩診察マニュアル 第3版

改訂第2版関節機能解剖学に基づく整形外科運動療法ナビゲーション 上肢・体幹

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